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「子猫ではない、風の音だつた事を確かめてから、ほつとする。」

ネコ好きならば『ノラや』の人としてだけはなんか知ってるぞ、という内田百である。
ワタシもネコ好きのはしくれとして中公文庫にまとめられたそれをやっと読んだ。今夏の酷暑ですっかり放棄してしまっていた読書のようやっとの再開一発目である。茹ってすっかりゆるんだアタマに旧仮名遣いは適度なリハビリだったかもしれぬ。内容がとにかくネコ一色なので、まったく難解なものではなし。


ノラについて、ある日ふらりといなくなってしまった後の喪失感による深い悲しみの日々の中で回顧するばかりなのがもの悲しく淋しい。こういった時にノラはこうだった、ああいった時にノラはああだった、という記述がノラが帰宅しない現実を浮き彫りにするばかりで、捜索のための広告を出せば多く優しき励ましの声もあるが、中には心無い愉快犯よろしく冷ややかな言葉を投げかけるろくでなしもあり。
自宅への帰り道を見失ってノラ自身も迷い悲しんでいるに違いない、という筆者の推測がまたなんとも切なくなる。
およそネコ一匹失ったところで狼狽し嘆き悲しむようなタイプではないような印象の人だったらしいのだが、老年に可愛がったネコだからなのか、秘めていただけで根本はそういった人だったのかはわからぬが、しかしノラが失踪してからの筆者の状態は現代で言うところのペットロス症候群そのもので痛々しい様である。
ワタシはこれまでに数々のともに暮した小動物を見送ってきたが、死は目の前にある現実だった。どれだけ悲しんでも命は帰ってくるものでないのだ。喪失感は自分自身が克服するしかない。
しかし失踪はまた別だ。生きているかもしれない、いやきっと生きている。帰ってくるかもしれない。それは一体いつか。果たして本当に帰ってくるのか。可能性と諦めの狭間で心の着地点がないのだ。

クルツが登場するところまで読み進めると、正直ほっとした。
ノラの代わりだとは思わない。しかし大変不躾な発言と自覚するが、小さき生き物をを失った悲しみは新たな小さき生き物が癒してくれるものだ。記憶の上書きでは決してない。筆者の記述からも、クルツを愛しんでもノラへの愛情は少しも薄れず、ただ思慕と回顧への悲しみがほんの少しではあるが薄れているように感じる。
そのクルツもやがて病を得て亡くなるのだが、看護に尽力した果ての死である。姿かたちが似ていたというノラとクルツの顛末の違いがここにあるのだが筆者の悲しみは比較しようがなく、もう二度とこんな悲しい思いをしないようにネコと暮さない、という選択へと至るのだ。それがまたもの悲しい。


もの悲しさを感じると同時に、筆者の飼いネコへのあふれる愛情を感じて、しんみりしたりにっこりしたりと忙しい。
クルツのためにお刺身を毎夜調達し食すメインはネコで筆者はそのお相伴にあずかるというスタンス。鮨屋の握りの玉子焼は必ずノラにやった、とかノラの体調が思わしくなく、「バタと玉子とコンビーフを混ぜて捏ね合わせた物」を与えた、とか。もちろん当世のネコ飼い事情や知識にあわないことも記述されてはいるが、しかし当時の筆者ができるだけの愛情をネコたちに注いだ様もよくわかる。ネコのしぐさひとつ行動ひとつまで大変鮮明に描かれていて、奥方が病気で入院された折にネコを相手の晩酌の膳でにゃあとしか答えぬものに対してえんえんとひとり語りしてみたり、果たしてにゃあとしか物言わぬものに対してえんえんと語ってしまうことは多くのネコ飼いが思わずやってしまうことのひとつではあるが、あの心理は一体なんなのか。
ネコは聞いていないようで聞いてくれている。


百先生のことは黒澤明『まあだだよ』と『ノラや』でしか知らないのが申し訳ないやら情けないやらであるが、少なくともこれだけネコに愛を持てる人なのだからどれだけ偏屈だったとしても絶対悪い人ではない、と決めてかかってしまう自分の単純さよ。
文中列車の旅のあたりとても面白く、その方面の先達として大変有名らしいことも『ノラや』を読んだことで知った。ぜひネコ話以外の百先生の本も読んでみたく思い、読書への意欲が再燃したことはやっと今夏の長く苦しく茹る闘いが終焉を迎えたのだと喜ぶ。



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Comment

ヒグチ | URL | 2010.09.22 23:47
実は「喪失感」というものを味わったことがなく。
小さいころから。
犬や猫を飼いたいと親に言ってみては。
誰が育てるの?
あなたが責任もって育てる??
アレルギーはどうするの??
的な感じで断念してきました。
アレルギーは単なる言い訳だな。うん。
責任持って育てられるか?ってのに。かなり疑問を持てた子供(兄と私)でした。(笑)
だって、自分だけで精いっぱいなのはわかってたし。小さいながらに。www

現在、やっと犬を飼ってみて。
まだ喪失感に触れるには数年かかるでしょうが。
どうなるのかなぁ。
想像つきませぬ・・・。
ツモ | URL | 2010.09.23 18:12
> アレルギーは単なる言い訳だな。うん。

いやいやいや、アレルギーは最重要だと思うぞ?
気合でどうにかなるもんではないんだから。


生きとし生けるものすべてみな等しくいつかは最期のときを迎えるものですが、そんな淋しいことはまだまだ先のそのまた先のことということで、想像なんてつかなくていいんだよー。

縁あって家族の一員となったワンコと楽しく暮してくだされ。
みやこ | URL | 2010.09.25 19:08
その失踪も、亡くなることも、両方経験してしまって、なんともなんともわかりすぎてしまう気持ちがチョト悲しいですねぇ(笑
でも、これまたわが身も限りある命なので、そのうえいつが限りかもわかんないワケで(笑、いずれは一緒だ!と思いはじめてます。そんなこと思うのも、少々年くったな~とこれまた悲しい(笑
秋が来ると読書パワー、たしかに増しますね~。私もアマゾンの中古をグルングルンあさってますよ~。
ツモ | URL | 2010.09.25 21:25
秋じゃなくても別に年中本読んでるよ?とか思ってましたけど、今夏のあまりの暑さに脳ミソが茹って正常に稼動できなくて読書なんぞできる状況なわけさらさらなくてってのがどっぷり2ヶ月続いて、涼を感じて初めて正常な意識を取り戻したと言っても過言でないわけで、嗚呼読書の秋ってこういう意味だったのねー、とか思ってる今日この頃です(笑)

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Author:ツモ
30代後半女。
→四十路突入。
→もうすぐバカボンのパパ越え。
→日本女性の平均寿命に向かって折り返し地点あたり。別にそこまで長く生きたいわけでもない。とりあえずの目標はこの先20年くらい。

暴れまわった娘時代の反動か、自宅にひきこもりがち。相方、娘二人と古都の端っこで地味に暮している。


気まぐれにしか更新しないくせに、記事がやたらと長くなる傾向にある。

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