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特別すぎた娘 その3

トルメキア戦役の大義はなんなのか。それについての詳しい説明はない。
しかし所詮戦争に正義はない。殺人と制圧、強奪、略奪に正当化する術はないのだ。大義名分は参戦国それぞれにあり、それぞれに違う。双方にとっての正義があり、双方に正しく確実に双方に誤りがある。憎悪は更なる憎悪を呼ぶ。血で血を洗う地獄絵図が繰り広げられるばかりなのだ。
個人が如何に崇高な精神と信念を持とうともイデオロギーを動かすのは困難である。
それを動かすことができるものが歴史に名を残すのだろう、結果的に正しかろうが誤りがあろうが。


王蟲には種族全体に崇高な精神が宿ることをナウシカは心を通わすことで知っている。
腐海と蟲は人類にとっての忌わしい脅威と捉えられているが、ナウシカにとってはひとつの大いなる生命体で、王蟲はその長たる偉大で高貴な種であるという敬愛を持っている。同様に故郷の民を愛し旅の途中で知り合い交流した人々を愛しむ博愛主義の娘である。

土鬼神聖皇帝は代々超常の力を持つとされている。多くの部族の集合体国を統べるため国内のさまざまな土着の古い信仰を弾圧し、聖都シュワに残された古の技を盾に自らを神聖なる頂点として僧会を運営し民衆に崇拝を強制させ恐怖政治を執っていた。
早期の戦勝を狙い、古の技を用い腐海の木を人工的に生み出して兵器化するのだが、これが大海嘯を引き起こすきっかけとなってしまう。

人造の腐海の木の突然変異体である粘菌が、膨張し移動しながら人間の土地を次々に飲み込んでいくのをなんとか鎮めようと、人類の愚の骨頂に落胆しながらもナウシカは奔走するが手立ては見つからず、せめて一人でも多く助けようと被害が予測される土鬼領内をメーヴェで飛び回る。
ナウシカは生きている命を少しでも多く救おうとしているだけで、別に民衆から崇拝されたいわけでも感謝されたいわけでもない。瘴気から逃げ遅れた多数の死者たちを埋葬することも出来ず、助け出せない多くの命が自分の手の届かない何処かにあるだろうことも知っていて、ただ自分に出来る救出作業をしているだけなのだ。人間がどれだけ愚かでも命あるものを見捨てることはナウシカには出来ない。人類が滅びるべき穢れ呪われた種族であったとしても生きている命は等しく価値のあるものなのだ、というナウシカの信念がある。

ナウシカの指示に従って大海嘯の波に飲み込まれる寸前で無事に瘴気の届かない山地に避難することができた民衆からはナウシカは「白い鳥」と称えられ、救いの神の使いとして崇拝の対象にすらなり始める。土鬼の土着の信仰に「神の使いである白い翼の使徒」という教えがあったが、神聖皇帝により弾圧されていた。
民衆が破滅的な状況の中のわずかな希望を「白い鳥」のナウシカに見出したのだ。

ナウシカは自らも愚かな人間のひとりであることを認めている。探求の旅を続けるためにやむなく兵と剣を交え切り捨ててしまうこともあった。自分を守るために盾になって散っていった命もあった。その現実をナウシカは痛切している。
王蟲という種族の崇高な精神は、欲望に塗れ愚かで穢れた人間より遥かに尊いと思っている。呪われた人類のひとりたる自分すら疎ましく思うほどに博愛の心は揺らがんばかりで、ついにナウシカの心は「虚無」に捕らわれ絶望の淵に心が彷徨うこととなった。

いつしかナウシカの与り知らぬところで「神の使い」と称えられ人々を導く立場に祭り上げられていく一方で、ナウシカは自身の個人的な感情に揺さぶられ大海嘯という惨状の傍観者として耐えられず絶望する。
死に行くナウシカの父ジルが
「おろかなやつだ・・・たったひとりで・・・世界を守ろうというのか・・・」
とナウシカの旅路を案じている。

ナウシカが数々の人間の命を救ったことは事実である。しかし如何に人間の手によって引き起こされた事とはいえ大海嘯という大きな現象になってしまった事態を、単独の手でなんとかしようとすることそのものが無謀である。
大海嘯が、人類がますます汚す大地の傷を癒すために起こる現象、という事実はナウシカにとって博愛精神のジレンマに苛まれることであった。
娘はごく個人の感情の揺れを解決できず、世界を捨てたのだ。


(続きます)



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いらっしゃいませ。

ツモ

Author:ツモ
30代後半女。
→四十路突入。
→もうすぐバカボンのパパ越え。
→日本女性の平均寿命に向かって折り返し地点あたり。別にそこまで長く生きたいわけでもない。とりあえずの目標はこの先20年くらい。

暴れまわった娘時代の反動か、自宅にひきこもりがち。相方、娘二人と古都の端っこで地味に暮している。


気まぐれにしか更新しないくせに、記事がやたらと長くなる傾向にある。

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