スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

特別すぎた娘 その9

ナウシカは墓所を破壊するよう、死の間際のオーマに命じる。
生命を弄ぶかのような存在を破壊すると同時に、人類が再び高度な文明を手にできる手段をも破壊する。隠蔽された怪しくも忌わしい計画の中にも閉塞した人類の未来を再び発展させる技が残されている。汚染に適応させた改造された人間の組成を戻す技術も残されているのだ。
「汚染した大地と生物をすべてとりかえる計画」を承知したうえで古の技を利用し、浄化過程の時代を乗り越え未来を作り出すことは不可能でないとして、しかしそれはもうすでに繰り返し人間の邪心を呼び起こし争いを生み出してきただけなのだ。

小さな我慢も積もり積もれば辛苦となる。小さな嫉妬が積もり積もれば憎悪になる。それらは波状で呼び合い繋がり漂い、浸透する。悲しみも同じだ。連鎖する。人間の業は連鎖と輪廻のくさびから逃れられない。
個人であるならその鎖を理性と知性で断ち切ることは可能である。しかしそれは集団の心理に通用しない。大衆の心理を動かすには指導者が必要である。それはカリスマとも言える。しかし指導者の存在は思想の独占と強制の危険性を孕む。

巨神兵は「調停者」として戦争を紛争をすべての争いを、地獄の劫火の如くの火力を用い強制的に終止符をうつ。オーマという名を与えてくれたナウシカを「小さき母」と呼びナウシカの意思にのみ従う。ナウシカがシュワの墓所の破壊を望んだからそれに応えた。
旧世界には、巨神兵によって戦闘に介入して裁定しそれに従わぬものすべてを焼き尽くして清算しようとした者たちと、腐海を生み出して緩慢に清算させようとした者たちがいた。
それら旧世界の智恵たる遺物はナウシカの手によって相殺され破壊され旧世界からの因縁を断ち切ったのだ。


ナウシカは、「調停者にして裁定者」と宣言する巨神兵オーマに、神を思った。滔々と計画理念を語る墓所の主に「神というわけだ、お前は千年の昔、沢山つくられた神の中のひとつなんだ」と言った。
旧世界の破綻に瀕した時、すべてを清算する手段として人類は神とも見紛う存在を創生してしまった。不遜である。
そして時代は「神の使いの白い鳥の翼」たる天啓の娘を降臨させた。ナウシカは神の代理人たる「特別すぎた娘」である。神の代理人は全権大使さながらに個人の裁量で決定を下す。旧世界の因縁に「目的のある生態系、その存在そのものが生命の本来にそぐわない」ものの代表たる天啓の娘が引導を渡したのだ。


「気に入ったぞ、お前は破壊と慈悲の混沌だ!」

ヴ王がナウシカを称えて、墓所の断末魔たる最期の光からかばい守って命を落とした。毒蛇と恐れられたトルメキアの王も「特別すぎた娘」を支持したのである。
ここに天啓の「特別すぎた娘」が完成する。

完成された「特別すぎた娘」は混乱に生き残った人々の前に降臨する。
灼けただれた大地が夕陽を浴びて金色に輝く中に、滅する墓所が流した王蟲の血よりも青い液に染められた衣を纏った天啓の娘は降臨する。
「特別すぎた娘」は神格化する。

クシャナはユパの犠牲をもって、生き残った土鬼の人民と和解し共に崩壊したシュワへ赴いた。クシャナは「特別すぎた娘」たる友人の生還を喜び、手を取り合う。
住める土地をますます失い、毒に肉体を侵される不安を持ちながらも、混沌とした人間の精神が本来持つ生き抜くための智恵と理性を支えに、閉塞した人類の展望を見出そうとするのがナウシカの理念である。クシャナはナウシカの博愛主義に王道を見出したのだ。
世界の秘密をナウシカは隠し持っている。それを知る者はほとんどいない。

旧世界の計画や智恵を廃棄しあらゆる生命の命運を「この星」にすべて託す、というナウシカの決断は排他的ですらあるのだ。天啓の娘は人類の大きな賭けを独断で決断した。ナウシカの判断は正しかったのか誤りだったのか。答えは読者それぞれに違うだろう。だが「きっかけはどうあれ生まれた生命」の尊厳を守る決断でもあるのである。


ナウシカは「特別すぎた娘」たるヒロインなのである。
物語の終わり、ヒロインに清清しい笑顔はない。

「どんなに苦しくとも生きねば・・・」

という、人類の先の苦難を予感した笑顔である。
それはあまりに大きすぎる世界の秘密を抱え、手に余る重大な選択を独断で決断した陰のある淋しい笑顔であるかのようだ。


(了)




スポンサーサイト

Comment

Comment Form
公開設定

いらっしゃいませ。

ツモ

Author:ツモ
30代後半女。
→四十路突入。
→もうすぐバカボンのパパ越え。
→日本女性の平均寿命に向かって折り返し地点あたり。別にそこまで長く生きたいわけでもない。とりあえずの目標はこの先20年くらい。

暴れまわった娘時代の反動か、自宅にひきこもりがち。相方、娘二人と古都の端っこで地味に暮している。


気まぐれにしか更新しないくせに、記事がやたらと長くなる傾向にある。

カテゴリー
最近の記事
月別アーカイブ
06  05  03  02  01  12  11  10  09  08  07  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02 
最近のコメント
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
本・雑誌
1450位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
822位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク
ブログ内検索
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。