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姫川亜弓について考える その3

ちょっぴり意地悪なライバル役に見えた亜弓が、一転してマヤの唯一無二の好敵手という好印象になったのは、ワタシが読むに耐え難く感じる「華やかな迷路」編後半からである。読み飛ばしがちなこの章でも、亜弓のマヤへの「紅天女」を通じた友情が感じられるこのエピソードは必ず読むようにしている。

世間を大いに騒がせたスキャンダルによって人気アイドル女優の地位を一気に失い芸能界での明日をも知れぬ状態に陥ってしまったマヤが、実は仕組まれた罠に嵌められてしまって芝居が出来ない状態に追い込まれたという事実を亜弓は密かに知ることとなった。そこで亜弓はマヤの敵討ちと云わんばかりに、その罠の実行犯のひとりの初主演の舞台上で、秀でた演技という武器でこてんぱんに打ちのめすのである。『ガラスの仮面』ファンの大半がきっと大好きであろう「カーミラの肖像」のあたりのエピソードである。

亜弓はそもそもマヤのスキャンダルそのものを疑っていた。自分の唯一無二のライバルがそんなつまらない事をするはずがないと信じて疑わなかった。それまで断固として拒否してきた親の七光りをも利用しまくってまで
マヤの敵討ちに力を注いだ。もうこれだけのものを見せつけられて、亜弓を好きにならないはずがないではないか。

亜弓は幼い頃から大人社会を見つめてきた。有名映画監督に人気女優の両親の威光の恩恵にあやかろうとする下心を持った人間を幼いながらも冷静な目で数多見極めてきたに違いない。自分もまた有名天才子役として活躍するようになって、下心を持った取り巻きに囲まれる機会が増えていっただろうから次第に警戒心が強くなっていったに違いないと思う。「親の七光り」に対しても相当にコンプレックスがあっただろうから、その警戒心というのはかなりのものだったであろうことは容易に想像できる。
そして亜弓は心から信頼できる友人というものを作れない少女となった。自分の本音を曝け出せる人物は、もう一人の「紅天女」の候補者である北島マヤだけだった。


紅天女の基本を学ぶ修行の最終日、亜弓とマヤは雨の中取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げる。


マヤ「あたし亜弓さんのこと尊敬してた・・・!すばらしい人だと思ってた。それなのにひどい・・・!」
亜弓「あなたが勝手に思いこんでいただけよ!ほんとうのわたしを知ろうともしないで・・・!それが迷惑なことだってわからないの!?」
マヤ「わからないわよ!いつだって亜弓さんとりすましていて自信たっぷりでほんとうの気持ちなんて話したことないじゃない!」
亜弓「あなたこそいつも自信なさげで上目づかいにひとのこと見て卑屈だったらありゃしない・・・!あなたみたいなひと大きらいよ!」
マヤ「あたしこそ亜弓さんみたいな高慢ちきは大きらい・・・!」
亜弓「いったわね!」
マヤ「いったわよ!」
亜弓「わたしのどこが高慢ちきなのよ!」
マヤ「いつもとりまきつれて女王さまみたいにいばってるじゃない・・・!」
亜弓「勝手に集まってくるだけよ、ほんとうの友達なんてひとりもいないわ!わたしのこと、よく知りもしないで勝手なこといわないで・・・!あなたみたいにいつも仲間に助けられてぬくぬくしているひとにはわからないのよ!わたしはいつだってあなたががうらやましかったんだから・・・!」
マヤ「えっ・・・?」
亜弓「そうよ・・・わたしにはとりまきはいても仲間がいない・・・。どんなに華やかにみえても、ほんとはいつもひとり・・・。どんなにあなたがうらやましかったか・・・」

以上一部抜粋したが、こういった遣り取りで本気の取っ組み合いの喧嘩をふたりは繰り広げる。
翌日の亜弓の心象独白、

「北島マヤ・・・、きっとあなたはほかの誰よりもわたしの近くにいる・・・。きっとあなただけだわ、ほんとうのわたしを理解できるのは・・・。そして舞台の上のほんとうのあなたを理解できるのも、おそらくはわたしだけ・・・。誰よりも近くて、誰よりも遠い存在・・・。」


もうこうなったらもはや恋ですわな。
いや、これは正統派の少女マンガなのでそーいった方向に話は流れていくはずもないのだが、しかし亜弓には本気でぶつかり合える人間はマヤしかしないのである。

亜弓は少女の頃から、人の期待する「演技の天才少女姫川亜弓」を演じることを己の義務のように課してきた。それは下心を持った人間への警戒心の表れでもあっただろうし、実は本音を語り合える友人を持たない淋しい自分へのシールドでもあったのだと思う。
こういったエピソードを読むにつれて、亜弓さんっていうのは愛おしくなるキャラクタなんです。「亜弓」ってここではあえて書いてますが、ホントは「亜弓さん」の方がしっくりくる。


(続きます。)
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Author:ツモ
30代後半女。
→四十路突入。
→もうすぐバカボンのパパ越え。
→日本女性の平均寿命に向かって折り返し地点あたり。別にそこまで長く生きたいわけでもない。とりあえずの目標はこの先20年くらい。

暴れまわった娘時代の反動か、自宅にひきこもりがち。相方、娘二人と古都の端っこで地味に暮している。


気まぐれにしか更新しないくせに、記事がやたらと長くなる傾向にある。

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